最近読んだ本バックナンバー2018年1月から4月

 『金副隊長の山岳救助日誌』『海の男 ホーンブロワーシリーズ 』『山の本 春号』『パタゴニア探検記』『雪山・藪山』『山を見る日』『白夜の大岩壁に挑む』『アルピニズムと死』を紹介しています。

「金副隊長の山岳救助日誌」を読む

 この本は、図書館で借りて読んだ本です。2007年の本ですから、もう10年以上も前の本です。

 金邦夫さんが、本の表紙にもあるように警視庁青梅警察署山岳救助副隊長の時に書いた本です。

 ここに出てくる内容でいくつか気になることがあったので、取り上げてみることにしました。

 一つ目は、私が奥多摩で一番よく登った川苔山周辺でもだいぶ遭難が起きているということです。

 多いのは、百尋の滝から登って行く途中と、本仁田山の下りです。

 川苔山への私のルートは大抵、鳩ノ巣駅からか川井駅からのコースでした。昔は獅子口小屋があってそこに泊まることが多かったのです。

 百尋の滝のルートは、私は、冬に行くことが多かったです。雪の少ない年でも結構、雪が積もっていることが多く、ちょっとした雪山の感じを味わえたのです。

 以前は、川苔山から南へ尾根を下り、山腹を巻いて逆川の上流を横切り、大ダワへでる道があったのです。しかし、今は、道が崩壊して通行止になっているようです。そうなると、百尋の滝へのルートを通る人が多くなるのでしょう。自分ではあまり意識しませんでしたが、急な崖になっていて遭難が多発している箇所があるようです。

 この本に書かれている事故現場は私も通ったことがある箇所が多いのですが、身近な奥多摩でもこんなに遭難があるのだと思いました。

 

 この本で気になることの2つ目は、岡部仙人のことが書いてあったことです。奥多摩小屋に小屋番として勤めていらした岡部さんには、私は2回か3回したお会いしていません。仙人と呼ばれて山仲間の中では有名であったことは後で知ったことです。私は、奥多摩小屋では、特に岡部さんと話もしませんでした。ただ、私一人しか泊まる人がいなかったことがあったのですが、とても親切に対応してくださったことを覚えています。

 この本では、奥多摩小屋の小屋番をやめてから、奥多摩小屋の近くの樹林帯の中に、密かに小屋掛けして暮らしていたことが書かれています。そして人に知られると綺麗に小屋を片付けて何処へか去ってしまったことも書かれていました。

 金さんも、年賀状は来るがどこに暮らしているか分からないと書いていました。

 きっと金さんは岡部さんの居場所をご存知でしょうが、そっとしておきたい気持ちもあるのでしょう。全く偶然ですが、この本を読んだ同じ時期に、岡部さんを知る方とお会いして話を聞く機会がありました。岡部さんは70歳をだいぶ過ぎたお年ですが、健在であることを知ることができただけでも嬉しく思いました。

海の男/ホーンブロワーシリーズを読む

 ナポレオン率いるフランスとイギリスが戦っていた頃の英国海軍士官の話です。

 船は当然帆船です。

主人公はホーンブロワーと言います。「海軍士官候補生」が第1巻であり、ホーンブロワーが若き士官候補生として戦艦に乗り込むところから話は始まります。

 

 ハヤカワ文庫で10巻までがシリーズとしてあり、その間のエピソードを書いた別冊があります。しばらくこのコーナーを更新していなかったのは、このシリーズをずっと読んでいたからです。他の本も読んではいましたが、まずはこの本を紹介したいという思いもありました。

 このシリーズは私の父が愛読していた本で、書棚にあるのは知っていたのですが、手に取ろうとはしなかったのです。父が亡くなり第1巻を残してあとの本は古書店に売ってしまったのです。しかし、昨年第1巻を読んでみて、面白いことに気づきました。さらにその話を父と同年代である山登りの大先輩のY氏に話したところ、Y氏がこのシリーズの本を貸してくださったのです。

 このシリーズは映画化とテレビドラマ化されています。イギリスのテレビドラマの方は見ていませんが、映画は、Y氏が貸してくださった物を観ました。ローマの休日で有名なグレゴリーペックが主演です。映画は第5巻から7巻の内容をもとに作られています。この映画も良いです。

 帆船ものの映画では、私の好きな映画にラッセルクロウが主演している「マスターアンドコマンダー」があります。こちらの方は、挿入されている音楽も良く、繰り返し私は観ています。

 動いている大きな帆船には乗ったことがありませんが、子どもの頃に父に連れられてヨットに乗ったことがあります。また、私の愛読書の一つである子ども向けの「アーサーランサムシリーズ」にはイギリスの子どもがヨットを操作する場面がたくさん出てくるので、「風に対して間切る」ことがどういうことかは理解できるのです。

 さて、ホーンブロワーの方ですが、若き士官候補生から、艦長になり、提督まで登りつめるまでの間に幾つもの危機を乗り越えていく話です。

 映画にもなった5巻から7巻までは、このシリーズのハイライトとも言えるワクワクする場面が多い内容になっています。連続しているシリーズではありますが、5巻から読み始めても構わないと思います。作者のセシル・スコット・フォレスターもこのシリーズの順には書いていないようです。

 ホーンブロワーはマリアという女性と結婚しています。戦いに向かう戦艦にバーバラという女性を乗せなければならなくなるのが5巻の話で、その後バーバラやマリアのことがどうなっていくのかも7巻までの中でわかるのです。

 8巻はバルト海での戦いで、地中海や大西洋とは違う雰囲気です。それもナポレオン軍が押し寄せるロシアの町の攻防をめぐる話ですから、それまでとは違った様相です。しかし、ナポレオン軍がロシアで敗退していく過程を描いていますから、この時代の歴史の一コマとして興味深い内容になっています。

 9巻は、「セーヌ湾の反乱」というものです。イギリスの軍艦の乗組員が反乱を起こした事件の解決にホーンブロワーが任命されて出かける話です。反乱は死刑と決まっています。いかに艦長が傍若無人な人であり、乗組員が思い余って反乱に出たとしてもです。さてこれをどのように解決するのかがこの巻です。傍若無人な艦長と言えば、2巻にも精神的に病んだ艦長が出てきて、その元で働くホーンブロワーが書かれています。

 自分の任務に対する責任感や実行する勇気、リーダーシップなどについて考えさせられる場面は多いです。もっと早くこの本を読んでいたら、自分の生き方にも多少影響を与えていたかもしれません。

 

山の本 2018年春号の紹介

 白山書房の季刊誌「山の本」春号が3月16日に発売になりました。

 この本は山のガイドブックというよりも山に関する紀行文や随筆など、読み物としての良さがあります。

 

 今回私は「いちページ紀行」に投稿しましたが、それが掲載されています。本当に1ページだけなので、立ち読みでも読めてしまう分量です。しかし、この本は書店ではなかなか見かけないのです。

 特集に投稿されていた平出眞治さんの「奥上高地の徳沢。花の旅」を読んで、私も5月にニリンソウの群落を見に行ってみようと思いました。

 山のことだけでなく、「鳥の風景」や「イマドキ日本動物記」もありますが、今回の動物記は「ヒヨドリ」を扱っていました。よく街で見かける鳥ですが、私の知らないことも書かれていて興味深かったです。

 今回で、連載が終了してしまうのが残念な三宅岳さんの「山仕事」は「ゼンメ折り」です。ゼンマイ採りのことは高桑信一さんの本を読んで知っていましたが、三宅さんの記事はゼンマイ折りの様子がよくわかる写真が添えられていました。

 

 また、横山厚夫さんの連載「このことを/たずねたい人/いまはなき」は、私の知らなかった山の先輩方の話なのですが、さらに、ここに出てきた方々の本を読んでみて、今まで知らなかった世界が広がる思いをしました。

 

 目次のわかるページのリンクを貼っておきますので、内容をもっと知りたい方はそちらを見てください。

 白山書房「山の本」

山の先輩の本を読む

 1月からこのコーナーを更新していませんでした。本を読んでいなかったわけではなく少々更新をサボっていました。書店に並ぶ新しい本よりも、古書店や図書館で探したり、山歩きの先輩から貸していただいた本を読む機会が多かったのです。

 古い本でも最近はネットで手に入る本もありますので、手に入る本について紹介して行きます。

 いっぺんに全部紹介しても読みにくいでしょうから、しばらくは頻繁に更新して行きます。

1.高木正孝氏の『パタゴニア探検記』

 岩波書店 同時代ライブラリー 950円

 

 本の帯に「南米大陸南端の氷陸地帯に挑む 戦後探検記の古典」とあります。1958年に日本・チリ合同探検隊の未踏調査や処女峰アレナーレス登頂の記録です。近頃はパタゴニアの景色はテレビで紹介されることもありますが、高木さんは当時未知の世界であったパタゴニアの山へ挑んだ先駆者です。現地へ入って山へ取り付くまでの先駆者ならではの色々な苦労が興味深いです。単に探検の記録に終わらず、人々の暮らしや国民性などにも興味関心を寄せた著者の文章が面白く読めます。残念ながら高木さんは1962年に南太平洋を航行中の船上から行方不明になっているのです。

2.川崎精雄氏の『雪山・藪山』『山を見る日』


 両方とも中公文庫です。税込で700円程です。なかなか書店で見つけられないので、ネットで1円で出ていた古書を購入しました。

 川崎精雄氏の紹介する山の紀行文や随筆は名文で、繰り返し読むに値する本だと思います。同じように私が繰り返し読んでいる本に、山口耀久氏の『北八ッ彷徨』があります。山口氏は「彷徨」と題名でつけるように、北八ヶ岳を自由に歩き回る登山の仕方です。川崎精雄氏は、道なき道を行く点では似ているのですが、チャレンジ精神を感じさせる山歩きをされる方です。

 川崎氏は、上高地手前の中の湯までバスが入るようになったのをきっかけに北アルプスに見切りをつけ、奥利根や会津の山々を歩かれています。

 『雪山・藪山』の最初の方に「やぶをこぐ」という随筆がありますが、これを読むと川崎氏の山に対する考えが伺えます。

 歳をとってからは西上州の山を歩いているようですが、最近私もまだ行ったことのない西上州の山々に興味を持ち始めたところです。

 「雪山・藪山」の巻末の解説は望月達夫氏が書かれています。この方の「折々の山」という本も読みました。会津地方の山をたくさん歩かれている方です。しかし、この本は中古でしか手に入らないので、ここでの紹介はしません。

 「山を見る日」の解説は横山厚夫氏がされています。横山氏は現在「季刊 山の本」に山歩きの先輩方のことを連載されています。

山野井泰史さんの本を読む

 山野井泰史さんと奥さんの妙子さんはクライマーです。

 夫婦で登ったネパール・中国国境のギャチュンカンからの下りで雪崩に襲われましたが、奇跡の生還をしています。しかしその時に泰史さんは五本の指を失いました。妙子さんはその前のマカルーでも指を失っているので、さらに失い、残っているのは足の指が2本だけだそうです。それでも次に紹介するグリーンランドの岩壁の登攀に挑戦したのです。

『白夜の大岩壁に挑む』 NHK出版 1600円+税    

            この本は新潮文庫からも出ているようです。

 山野井夫妻がグリーンランドの大岩壁に挑戦し、登攀した様子はNHKスペシャルで放送されたので見ました。

 山野井夫妻は未知、未踏の岩壁を探してグリーンランドへ行き、登るにふさわしい大岩壁を発見し、「オルカ」と名付けました。

 オルカへは、山野井夫妻と木本智さんの3人で挑戦しました。

 実は木本さんも凍傷で足の指を失っているのです。

 NHKの映像は、岩壁の登攀の様子が同行した取材班によって近くから撮影されており、迫力ある映像となっています。残念ながらNHKオンデマンドでは配信されておらず、見たければDVDを購入するしかありません。

 この本は、その迫力ある映像にはかないませんが、番組では紹介し切れなかったことも書かれており、山野井夫妻のお人柄もよく伝わってきます。

『アルピニズムと死』 ヤマケイ新書 760円+税

 たいそうな書名にしたものだと思います。私は山野井さんのことを知らなければ、手にとって読もうとしなかったかもしれません。

 実際には、その果敢な登山スタイルから「天国に一番近い男」と呼ばれた山野井さんがいかに生き残ってきたのかという話です。

 副題の「僕が登り続けてこられた理由」というのがこの本の中身を一番言い当てています。

 表題の割に読みやすい内容で、新書版なので一気に読めてしまいます。

P115からP119に「西上州一本岩」のことが書いてあります。日本国内にまだ未踏の岩峰があったのです。その岩を2007年に初登攀しているのです。2007年は、グリーンランドの「オルカ」と名付けたビッグウォールを初登攀した年です。その大異形のあと、虚脱感があったのでしょうか。2ヶ月程山へ行っていないようです。「オルカ」の後挑戦したのが「一本岩」なのです。それからまた新たな登攀意欲が出てきたようです。

 私は、西上州にそのような岩があることさえ知りませんでした。ちょうど西上州の興味を持ったと時に、横山厚夫氏から昭文社の「西上州」の地図をいただきました。さらに西上州のガイドをしていらっしゃる打田鍈一氏と山歩きをご一緒させてもらう機会を得て「一本岩」の場所も教えてもらいました。「一本岩」にはもちろん登れませんが、西上州には行ってみようと思っています。

 P150からP156には「想定外の出来事」として奥多摩で熊に襲われた話が載っています。場所は奥多摩湖周辺の遊歩道です。向こうから熊が突進してきたと言います。あっという間に体を倒され噛みつかれたそうです。なんとか逃げられたのですが、ツキノワグマが向こうから襲ってくるとはショッキングなことです。「世界で活躍する登山家」から「熊に襲われた登山家」で有名になってしまったと自笑しているようですが、私はこの記事を読んで熊について意識することになりました。

 次回、熊について読んだ本を紹介します。