私が中学生の時には、美術の授業は週2時間続きでありました。しかし、今は週に1時間ですから、美術の授業で陶芸を行うのは困難が伴います。1時間の中で、準備、制作、後片付けを行うのは大変なのです。そのため、陶芸を美術の授業で行わない学校もあります。
ここでは、私が若い頃、あえて困難な方法で陶芸指導に取り組んだ記録の紹介と、校長でいた時、その学校で美術の教員が行なった素敵な陶芸指導の実践を紹介します。
野焼きによる土器の制作です。このこと自体は珍しいものではありません。私は、文化祭の学級発表としてこれに取り組みましたが、その時には、地域の造成地から地主さんの了解をとって粘土を採取し、陶芸に使える粘土を作るところから行いました。
粘土の採取は一日でできましたが、とってきた粘土層の土から小石などの不純物を取り除き、粉にして粘土に練り上げる作業は何日もかかりました。しかし、学級の生徒たちはそれをとても楽しんで行いました。
燃料となる廃材は保護者の協力でトラック一杯集めることができました。
野焼きは成功し、見た目は悪いですが、土器ができました。その粘土を使って陶芸窯でも焼きましたが、そちらは表面があぶく状になるなど失敗でした。シャモットを入れて耐火度をあげたのですが、テストピースを作って事前に焼くなどの時間がなかったので、ぶっつけ本番で行なったら失敗してしまいました。
学校内での了解、消防署からの許可、地域の方々の協力などが必要で、手間は大変なのですが、教材として売られている粘土を使い、業者に出して焼いてもらう陶芸では味わえない陶芸の本質に触れることができます。
もみ殻を使って陶芸を行う方法は、「野焼きでつくるやきもの」大河内信雄・大河内栄子 著 大月書店 に紹介されていた方法を、最初は本の通りに実践しました。これはうまくいきました。レンガで作った円筒状の窯の中で材木を燃やして熾を作ります。あとはもみ殻を入れ、作品をもみ殻の中に入れてトタン板をかぶせて放っておけば良いのです。朝から準備して夕方までには焼きあがりました。
この経験を生かして、異動した先の学校でもやってみました。しかし、この時はレンガではなくコンクリートブロックを使い、窯を大きくしました。そしてもみ殻だけでなく、藁も使いました。藁は校長先生の奥さんの実家が農家でしたので、校長先生と一緒にもらいに行きました。
藁を巻いた作品は火襷のような文様が出ました。しかし、早い段階で藁に火が着くと一気に燃え上がり、作品が割れてしまうことがありました。
上の写真は、さらに窯の大きさを大きくして、美術の授業で作った作品全部を焼いた時の様子です。これは大きくしすぎました。夕方になってももみ殻はくすぶり続け、仕方なく私は窯の横に車を停めて、火の番をしながら一夜を明かしました。
作品も焼きムラがだいぶ出ました。良い焼け具合とそうでないものの差が有りすぎました。はっきり言って失敗です。
窯の大きさは畳半分ぐらいまでが良さそうです。
使って楽しめる陶芸作品を作らせたいものです。コップなどを作っても、生徒が作ると厚みがあって重い作品になりがちです。そうなると鉛筆立てとして使うぐらいしか楽しめません。私が校長をしていたS中学校の美術部で、美術の先生と一緒に私も指導に入り、カレー皿作りを行いました。皿なら少々分厚くても使えます。板皿なら厚い方が歪みにくくなります。ただ、縁を締めないと縁にキレが入ったりするのが要注意です。
カレー皿はひも作りで作りました。形を作り上げた後も、厚みをかなり削らせました。それでも素焼きが上がった作品で、厚みがあるものはサンドペーパーでさらに削らせました。そして使える感じになったところで、ベンガラで文様を描きました。
釉がけは、休日に希望者を私の家内が教わっている陶芸教室へ生徒を連れて行き、そこで釉がけを行いました。通常学校で陶芸を行うと、形作りとせいぜい文様描きまでやって、あとの釉がけと焼成は全く業者任せです。
私は、生徒に少しでも陶芸の工程を目で見て経験させたいと思っていました。
釉がけのあと、陶芸の窯を見せてもらい、陶芸教室の先生に説明をしてもらいました。
文化祭では、完成したカレー皿が並びました。
粘土の素焼きでランプハウスを作る授業です。私が校長をしていた学校で、美術の先生がここ数年取り組んでいた題材です。この写真は、完成後の鑑賞会の様子です。視聴覚室の暗幕を閉め、中に入れた電池式のミニランプを点灯させて鑑賞しました。使った粘土は、その年によって違います。信楽の赤を使っていた時もありますが、この写真の時はテラコッタ粘土です。
頼むと板状の粘土を納入してくれる業者もいるようですが、たたら板とのし棒を使って粘土の板を作るところから始めています。大きなペットボトルに新聞紙を巻いたものが芯となり、それに粘土の板を巻きつけて筒状の形を作るのが基本形です。中には、板で四角い家を作りたいという生徒もいましたが、それも可としています。
最後の写真は、化粧土を塗っているところです。白の化粧土とベンガラを用意しました。
陶芸の授業で一番の悩みどころは作品の保管です。この学校では途中の作品を各自ビニール袋に入れて美術室のロッカーや第二美術室に保管しました。時々、先生が様子を見て、霧吹きをかけたりしていました。
もし、市場などから大きな発泡スチロールの箱をたくさんもらえるようでしたら、それに入れて積み上げておくのが良いです。発泡スチロールの箱の中でしたら1週間ぐらいは保管できます。
後片付けも1時間しかない美術の授業では大変です。作業を始めたと思ったらすぐに片付けの時間になってしまいます。
粘土板やヘラについた粘土は、水道の流しに直接流さないようにする必要があります。バケツや大きなバットや衣装ケースなどに水を貯めてその中で洗うようにします。
そうした手間はあるのですが、中学校3年間の中で1回ぐらいは陶芸を経験させたいものです。